初夏の彩り

* 初夏

会津の初夏を彩る花は、何と言っても桐の花だと思っています。
会津とは切っても切れない縁のある「桐」。
かつての栄光は陰をひそめても、まだまだ会津にとってはもっとも身近な木なのであります。
私の姉が生まれたとき、両親は姉のために何本かの桐の苗木を植えました。
時代が変わり、姉の嫁ぐ頃には成長した桐の木で嫁入り道具を製作する風習はすたれてしまいましたが、
裏山にはそのときの桐の木がいまだに成長を続けています。
そして、今年もひそやかに薄紫色の花を咲かせていました。

只見川沿いを走ると、桐の花が途切れることなく私たちの眼を楽しませてくれます。
梅雨前のさわやかな季節に控えめな薄紫の色を添えて、会津の初夏の風景をこころに刻み込んでくれるかのようです。



恋人坂の棚田の上部に、一本の桐の木が五月の空に枝を伸ばしていました。
広々とした棚田に、一本だけ空を目指している桐の木。
どなたが植えたのかは存じませんが、あるいは私の姉の木と同様の小さな物語を秘めているのかもしれませんね。
ともあれ、「恋人坂の一本桐」も飯豊の山塊を背景に小さな花をたくさん咲かせていました。
私は桐の木の下にたたずんで、風に揺れる薄紫を見上げています。

「ああっ、もう夏なんだなあ・・・」
いつの間にか季節の間は過ぎ去っていて、夏のパラソルの下に入っていることに気がつきました。

つばめは棚田の起伏に沿って、波のように飛んでいます。