春望

tamon-wat2005-04-15

長い間白と黒との色彩に覆われていた会津盆地も、三寒四温の波をくぐってようやく花の季節を迎えようとしています。一日一日と大きく聴こえてくる雪解けの水の音や、雪囲いをはずす金槌の音、そして北へ帰る白鳥たちの編隊などを見聞きすると、間もなく訪れるあの爛漫の花の日々を、わくわくとして待ちわびる北国の住人がいます。

久しぶりに恋人坂からお伝えします。
寒冷前線が去って会津は晴天に恵まれました。道端の残雪もすっかりとやせ細り、汚れてしまっています。残雪の合間からは黄緑色のふきのとうがいくつもいくつも顔をのぞかせ背比べをしています。私は車を降りて斜面の農道を歩き始めました。少し歩いただけで額には小さな光がいくつも踊っています。シャツ一枚の軽やかさに身もこころも弾むようです。
眼下に広がる会津盆地はこころなしか、それとも私が思うが故か、うっすらと緑めいているようにも見えています。ついこの間までは白一色の光景でしたのに、季節の移り行くスピードは思ったよりも速いものです。
盆地をはさんで神の山、飯豊山が姿を見せています。冬の間はほとんど姿をみることはかないませんでしたが、久しぶりに見る飯豊山は実に神々しく、清浄なる気持ちにさせてくれます。
私は声もなく立ち尽くし、じっと見とれていました。人知を超えた存在を感じていたのです。この春が来るまで、私は何をなしてきたのでしょう。眼の前にあった生きるための様々な努力、感情、希望。もうすぐ緑なす盆地と、白きたおやかな神の峰々、そして、どこまでも澄み渡ったこの碧空に、私の全ては溶け込んでいったのです。

私は大いなる季節のなかで、小さく身震いをしました。