瑞穂の国

tamon-wat2005-05-20

夕刻、恋人坂を上がって振り向くと、美しい景色が広がっていました。傾きかけた陽の光を浴びて、盆地は一面の光り輝く湖になっていたのです。

小寒い日々が続いていました。カーディガンを着たり脱いだり、朝晩にはストーブのお世話にもなりました。季節の変わり目とはいえ、とまどうような日々でしたね。
そんな寒さの中、田植えは順調に進んでいました。昔とは違って、早めの田植えが定着しています。植えられる苗も背丈の短い、そう少年のような苗に思えます。
少年のような苗が遅霜の寒さにやられないように農家の方は水の管理に気を使います。
深水の中で、頭だけをちょっこと出して寒さに耐えている少年のような苗、列を作って並んでいます。

この時期の会津盆地はこうした田んぼが一面に広がって、かつてこの盆地が大きな湖だった姿を彷彿とさせてくれます。
同時に、日本は水の国、「瑞穂の国」だなあと感嘆させてもくれるのです。
人家や道路、工場や橋などが作られ、かつての姿は望むべくもないのですが、真冬の白一色の世界と、この田植えの季節だけは、長い間この盆地が培ってきたいくつもの塊村と豊穣の大地とを見せてくれるのです。
私は黙ってこの光景を見つめています。幾百年もの時間を見つめています。
雲が切れて、幾筋もの陽の光がまぶしくなってきました。西洋では「天使の梯子」というのでしたね。
しかし、この盆地での光の筋は、来るべき豊穣を約束してくれているような、そんな気配に満ち満ちています。


  • とあるカフェにて

お蔵を利用した喜多方らしいカフェでひとときを過ごしました。
お蔵の中にコーヒーの香りが満ち満ちていて、時間はゆっくりと流れているようです。
テーブルの上は季節の花でいっぱいです。心地よい「初夏」の演出が自然でした。
小さな窓際に二人がけのテーブル席がありました。テーブルの上には一輪の深紅のバラが飾ってあります。
「おやっ?」私ははるか30年も前の情景を思い出していたのです。
親の脛をかじって、遠国へ無謀な旅をしたことがあります。私にとっての大冒険だったその旅で、私が得たものはたくさんあったようです。
そのひとつに旅先で知り合った在留邦人の淑女に教えて頂いた物語があったのです。
詳細は覚えていませんが確かギリシャ神話、美の神ビーナスの話です。
アドニスを密かに愛していたビーナスはアドニスが矢を受けて亡くなったことを知りました。アドニスの流した血からはアネモネの花が生まれ、アドニスを密かに愛していたビーナスの流した涙からはバラが生まれたといいます。
秘密の恋の結末、悔やむこころの涙が深紅のバラになったということ。

だから、
欧州のレストランで赤いバラが一輪だけ活けてあるテーブルがあったなら、そこは恋人たちの席。
秘密は守ってあげますという無言の約束と、この席ではお静かにお過ごしくださいという、そんな意味があることを覚えておくといいですよ。確かこんなお話でした。
いま、喜多方でそんなバラのテーブルを見つけました。はたして恋人たち専用の席なのか、はたまたただの偶然か?
確かめたくなる気持ちをグッと抑えて私は立ち上がりました。
おそらくは、洒落たはからいをしてくれるお店なんだ。この街にもそんなお店があったんだ。
胸の奥でちょっぴりあったかいものを感じながら、夕闇の街へ歩き出しました。


  • 洒落ついでにもうひとつ

5月の今頃はラベンダーの種まきの季節でもあります。お庭にもいかがでしょうか?
ラベンダーの洒落た使い方をお教えしましょう。
乾燥ラベンダーを数本ご用意ください。
そのラベンダーを白ワインに一晩漬け込んでおくのです。
あ〜ら不思議。淡いバラ色の、そして甘い香りの特別なワインに変わってしまいます。
大事な方にさりげなく出すと、驚かれると思いますよ。


  • お勧めランチスポット

いつもラーメン店ばかりですので、たまには違うお店を紹介致しましょう。
「めし屋」です。
といってもちょっと見落としてしまうかもしれません。
場所はわかりやすいのです。
大和川酒造北方風土館の入り口脇にあります。
お昼どきには縄のれんが掛かっています。そして小さな看板「ひるめし」。
入り口の戸を開けるとそこは8畳ほどの部屋で鍵形のカウンターがあるだけ、お店の人は見当たりません。「あれっ、ほんとにやっているのかな?」
心配ご無用!
カウンターに座って待つことしばし。店の奥のほうからパタパタと足音が聞こえてきます。「いらっしゃいませ!」かわいらしい女性が姿を現します。
この店は大和川北方風土館の中にある「良志久庵」という蕎麦屋さんが開いています。
お客の入店をセンサーで知ると、店員さんが駆けつけるというわけです。
驚くのはメニュー、丼ものしかありませんが値段はなんと500円。
親子丼、牛丼などアツアツの丼をフーフーいって掻きこむのです。おすましは50円。十分ですね。
目立たないことと、無人なのかと思われることで観光客はまず入ってきません。
味のわかるジモッティ達御用達ですね。
ラーメンばかりでなく、庶民の味にもこんな隠れた名店があること、あなたにもお教えいたしましょう。
リピーターのあなたでしたら、こんなお店も素敵ではないでしょうか?


  • 歳時記 「薄暑」

筍がおいしい毎日です。きぬさや(さんどまめ)と一緒の味噌汁は美味しいですね。煮物だってもちろんです。ようやく初夏の光があふれてきました。シャツ一枚の快適さを楽しみましょう。

 たかんなの皮の流るる薄暑かな  芥川龍之介    
                       (たかんな=たけのこ)